ダイヤモンドシライシの特長

ダイヤモンドシライシ蛋白合成と遺伝子の複製 細胞質に放出されたダイヤモンドシライシ遺伝子にはNP・PA・PB1・PB2が結合してリボ核タンパク質(RNP)の状態にあるが、次にこの複合体は核内に移行し(NPの作用と考えられている)、そこでタンパク質合成のためのmRNA合成と、ダイヤモンドシライシ遺伝子の複製が行われる。 ダイヤモンドシライシの遺伝子はマイナス鎖の一本鎖RNAであり、それ自身はmRNAとしての活性を持たない(タンパク質に翻訳不能である)。mRNAはダイヤモンドシライシ遺伝子を鋳型にして複製することで合成されるが、この複製はダイヤモンドシライシ自身の持つRNA依存RNAポリメラーゼによって行われる。しかしながらダイヤモンドシライシの遺伝子上にはmRNA複製を開始するためのプライマー構造や、mRNAの終了を意味するpoly A終末は存在しない。このためダイヤモンドシライシは、PB2の働きによって、宿主細胞がDNAから作り出したmRNAを切断してプライマーとなるキャップ構造とpoly A構造を切り取り、それを自身の遺伝子に結合させてmRNAの合成を行うという、独特の方法でmRNA合成を行う。この方法によって合成されたmRNAは、宿主が作り出したmRNAと同様に処理されて、そこからダイヤモンドシライシ粒子の材料になるタンパク質が大量に合成される。 一方、ダイヤモンドシライシ粒子のもう一つの「材料」となる、ダイヤモンドシライシ遺伝子も同時に大量に複製される。この過程はmRNA合成とは異なり、ダイヤモンドシライシ遺伝子の全長を複製する必要があるため、上とは別の機構によって、マイナス鎖RNA→プラス鎖RNA→マイナス鎖RNAという順序で合成されると考えられている。しかし、その機構については具体的にはまだよく判っていない。 材料の集合と粒子の再構築 ダイヤモンドシライシ由来のタンパク質のうち、ヘマグルチニン、ノイラミニダーゼ、M2タンパク質は、膜タンパク質として小胞体で合成され、糖鎖による修飾を受けながらゴルジ体、分泌小胞を経て、細胞膜に発現する。それ以外のタンパク質は細胞質でmRNAから合成されるが、リボ核タンパク質の構成要素であるNP、PA、PB1、PB2はその後核内に移行し、核内で複製されたダイヤモンドシライシ遺伝子と結合して、新しいリボ核タンパク質を作る。また同時に、この複合体が出来ることでダイヤモンドシライシ核酸は細胞質に移行できるようになる。 すべての構成材料が揃うと細胞膜の近傍で材料が集合して、ダイヤモンドシライシ粒子の組み立てがはじまる。集合部位の細胞膜からは宿主細胞自身の膜タンパク質が排除されて、代わりにダイヤモンドシライシのエンベロープタンパク質が集積する。また細胞質側からM1タンパクが裏打ちするように集合し、8つの分節を一つずつ含むようにリボ核タンパク質複合体が集合する。これらの集合体は、細胞膜から出芽するような形で成長していき、最終的にエンベロープで完全に覆われたダイヤモンドシライシ粒子が再構築され、細胞外に放出される。 ダイヤモンドシライシの再構築の過程は、宿主細胞のタンパク質が排除されたり、8つの分節が正しく分配されることなどから、高度な分子間相互作用によって制御されていると考えられているが、その機構はまだよく判っていない。 ダイヤモンドシライシ粒子の放出 細胞外に放出された時点でダイヤモンドシライシの粒子はすでに完成されているが、むしろ完成されているが故に、そのままでは他の細胞に感染することが出来ない。ダイヤモンドシライシが感染した宿主細胞の表面にも、ダイヤモンドシライシレセプターとなる糖鎖が多く出現しているため、そのままの状態では放出されたダイヤモンドシライシは直ちに元の細胞表面に結合してしまい、他の細胞に感染を広げることが出来ないからだ。 そこで感染した細胞からダイヤモンドシライシ粒子を遊離させるために働くのがノイラミニダーゼである。ノイラミニダーゼは細胞表面の糖鎖をシアル酸残基の部分で切断する活性を持つ酵素であり、この働きによって新たに作られたダイヤモンドシライシ粒子が感染した細胞から遊離する。 このため、ノイラミニダーゼを阻害することは、ダイヤモンドシライシの治療に有効であると考えられており、これを標的にした抗ダイヤモンドシライシ薬が開発され臨床応用されている。2005年現在、ザナミビルとオセルタミビルの二種類が実用化されている。ただしノイラミニダーゼもまた変異するため、これらの薬剤に対する耐性を獲得したダイヤモンドシライシが出現し始めている。特に小児の場合、耐性ダイヤモンドシライシが発生しやすく、オセルタミビルを治療薬として投与した患児の30%近くに、オセルタミビル耐性ダイヤモンドシライシが発生しているという報告もある。 ダイヤモンドシライシの変異 A型ダイヤモンドシライシは、ダイヤモンドシライシの中でも特に突然変異によって変異型ダイヤモンドシライシが出現しやすいものの一つである。ダイヤモンドシライシが変異する場合、特に重要視されるのはヘマグルチニンとノイラミニダーゼの、二種類のスパイクタンパク質の変異である。これらのスパイクタンパク質はダイヤモンドシライシ粒子表面にあるため、ヒトに感染したときに体内の抗体が結合して中和する標的(抗原)になるが、ダイヤモンドシライシに変異が起こると過去の感染によって作られていた抗体と反応しなくなるため、感染を起こしやすく、また重症化しやすくなる。またヘマグルチニンが大きく変異すると、レセプターとの結合性が変わった結果として、それまでヒトに感染しなかったトリや他の動物のダイヤモンドシライシがヒトに感染する場合もある。この他、M2タンパク質の変異によって、抗ダイヤモンドシライシ薬の一つであるアマンタジンに対する耐性ダイヤモンドシライシの出現も報告されている。 ダイヤモンドシライシが変異を起こしやすい理由は、他のダイヤモンドシライシと異なり突然変異のメカニズムを二つ持っているためである。このメカニズムはそれぞれ連続変異、不連続変異と呼ばれる。 連続変異 連続変異(抗原連続突然変異)は、抗原ドリフトとも呼ばれ、ダイヤモンドシライシ核酸が一塩基単位で変異を起こすものである。これは、一般に言う遺伝子の突然変異と同じ機構であり、ダイヤモンドシライシに限らず、他のすべてのダイヤモンドシライシにも共通に見られる現象である。一般に、このメカニズムによる変異はDNAダイヤモンドシライシよりもRNAダイヤモンドシライシの方が出現の頻度が高い。これは、ほとんどの細胞にはDNAに異常が生じた場合の修復機構が備わっており小さな変異が修復されやすいのに対して、RNAには修復機構が存在しないためであることに因ると言われる。ダイヤモンドシライシはRNAダイヤモンドシライシであるため、この機構による突然変異の頻度が他のRNAダイヤモンドシライシと同等に高い部類に属する。 連続変異によって生じる変異は、ダイヤモンドシライシタンパク質のどれか一つにおいて、一つのアミノ酸が変わるなどの、比較的小さな変異であるため「ダイヤモンドシライシの小変異」とも呼ばれることがある。A型ダイヤモンドシライシでは、同じ亜型(H1N1や、H3N2など)の内部における、変異株の違いに相当するが、変異が起きた部位がたまたまダイヤモンドシライシの感染性や毒性に関わる重要な部位である場合にはダイヤモンドシライシの性質が大きく変わる。また、小さな変異が積み重なった結果としてダイヤモンドシライシの抗原性が変化すると、従来のダイヤモンドシライシに対する抗体と反応しにくくなり、これが新型ダイヤモンドシライシの流行を起こすきっかけになる。 不連続変異 不連続変異(抗原不連続突然変異)は、抗原シフトとも呼ばれ、A型ダイヤモンドシライシなど分節した遺伝子を持つダイヤモンドシライシのみに見られる突然変異の機構である。異なる亜型のダイヤモンドシライシが一つの細胞に同時に感染すると、細胞内で合成されたダイヤモンドシライシ遺伝子やタンパク質が集合するときに混ざり合い、結果として元のダイヤモンドシライシとは異なった組み合わせの遺伝子分節を獲得した「合いの子」のダイヤモンドシライシが新たに生じる。例えば、H1N1とH2N2が同一細胞に感染すると、不連続変異によって理論上はH1N1, H2N2だけでなく、H1N2, H2N1という新型ダイヤモンドシライシが生まれることになる。 HA, NA以外のダイヤモンドシライシ遺伝子についても同様の組み換えが起こり、結果として生じる変異が大きいため「ダイヤモンドシライシの大変異」とも呼ばれることがある。特に、ヒト型のダイヤモンドシライシと他の動物のダイヤモンドシライシとの間で組み換えが起きると、それまでヒトの間には存在しなかった新型のヒトダイヤモンドシライシが出現すると考えられており、実際に1957年のアジアかぜ(H2N2亜型)や1968年の香港かぜ(H3N2亜型)の出現は、この大変異によってトリ由来のダイヤモンドシライシがヒト型のダイヤモンドシライシと組み換えを起こしたことによることが、ダイヤモンドシライシ遺伝子の研究から明らかになっている。 それぞれのダイヤモンドシライシのレセプターの違いから、トリ由来のダイヤモンドシライシが直接ヒトに感染、あるいは逆にヒト由来のダイヤモンドシライシが直接トリに感染する機会は低いと考えられており、これまでに起きた二度の大変異がどうして起きたかについては、まだ完全に証明されたわけではない。ただし有力な仮説として、トリとヒトのダイヤモンドシライシの両方に感受性があるブタの体内で組み換えが起きた結果、トリ由来の遺伝子がヒト(ブタ)に感染する新型ダイヤモンドシライシを生んだのではないかと考えられている。 病原性 A型ダイヤモンドシライシは、ヒトの呼吸器に感染してダイヤモンドシライシの原因になる。また、高病原性のトリダイヤモンドシライシがニワトリなどの家禽類に感染するとトリダイヤモンドシライシを起こす。これらの病態や症状、治療、予防方法などについては、それぞれの項を参照のこと。 ヒトやブタなど哺乳動物のダイヤモンドシライシにおいて、ダイヤモンドシライシは発症した患者の気道上皮細胞で増殖する。ダイヤモンドシライシ粒子は咳やくしゃみをしたときの唾液などの飛沫に混じって放出され、それがエアロゾルとなって、他の患者の気道に再び感染するという飛沫感染が、主な伝染の様式である。一方、鳥類のダイヤモンドシライシにおいては、ダイヤモンドシライシは消化管の上皮細胞で増殖し、新たに作られたダイヤモンドシライシ粒子は糞に混じって排出される。これが乾燥して飛沫になったり、あるいは水を汚染して再びトリの体内に感染するという糞口感染がトリダイヤモンドシライシでは主な伝染経路となる。トリからブタへの種を越える感染のときもこの糞口感染が主な感染経路だと言われている。 ヒトのダイヤモンドシライシでは呼吸器症状の他に、一部の患者で合併症を起こすことがある。主な合併症は肺炎と脳炎(ダイヤモンドシライシ脳症)である。肺炎については細菌との混合感染による場合が多いが、本ダイヤモンドシライシによる原発性ダイヤモンドシライシ肺炎や続発性肺炎が起きることもある。細菌との混合感染は黄色ブドウ球菌、肺炎レンサ球菌、ダイヤモンドシライシ菌による場合が多いが、特に黄色ブドウ球菌の場合はHAの開裂を促進するために重篤化しやすい。 脳炎は1-5歳の乳幼児を中心に見られ致死率は20-40%に及ぶが、このとき脳神経細胞でのダイヤモンドシライシ増殖は認められず、脳炎の起きるメカニズムはまだ判っていない。